臓腑弁証の第1回目は”肝”の不調についてです。
6つの症状と、その治し方、処方される漢方薬について私の漢方ノートを公開していきます。
肝の働きは大きくわけて2つあります。
①気を巡らせる疏泄の働き
②血を倉庫に貯めておくおく蔵血の働き
肝は普段気を巡らせる交通整理をしていますが、色々な原因があって働かなくなることがあります。
交通整理をする肝がいなくなった道路はトラブルが生じます。→肝気鬱結、肝火上炎
肝のもう1つの働きは血を倉庫に貯めておくことです。必要な血を体に送れないことで、月経の遅れなど、いろいろなトラブルが生じます。→肝血虚、肝陰虚
また、親子関係に当たる腎の不調が同時に起きると、身体の中に風が生じます。→肝陽上亢、肝陽化風
気の巡りのトラブル 肝気鬱結(かんきうっけつ)
最近、気分が落ち込んで、気がついたらため息ばかりついている。
仕事が忙しくてイライラすることも多くて、肩がパンパンに張っている。
胃が上手く働いていない感じがして、食後に腹部膨満を感じる。
月経も乱れ気味・・・気が滞りが長引くと肝気鬱結(かんきうっけつ)の状態になります。
いわば気が渋滞を起こしている状態です。
特徴は気分の落ち込みと身体の張り。
気の流れが滞ると、気分が塞ぎ込んで身体に張ったような痛みが現れます。
治法は疏肝解鬱(そかんかいうつ)になります。
読んで字のごとく肝を正常に流し、鬱を解放するという意味です。
気の通り道であるホースを踏みつけている障害物をのり除くイメージです。
代表処方は加味逍遙散(かみしょうようさん)です。
婦人科の三代漢方の一つ。月経異常や更年期など女性特有の症状に処方される漢方薬です。
気の巡りのトラブル 肝火上炎(かんかじょうえん)
ストレスでとにかく怒りっぽい。
顔が赤く、鼻血が出る。
怒りすぎて興奮のあまり眠れない。
頭痛、めまい、耳鳴りがする。
便秘がちで、黄色い尿が出る。
肝気鬱結が長引くと、肝に熱を帯びる肝火上炎になることがあります。
漢方では何かが詰まっていると熱を生むと考えます。
火を帯びているのでイライラして怒りっぽくなります。
治法は清肝瀉火(せいかんしゃか)になります。
肝の火を冷やして下げるという意味です。
代表処方は竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)です。
五臓の肝と六腑の胆の字が両方入ってるので、肝胆の不調に効く感じがしますね。
膀胱のトラブルに良く処方される漢方薬です。
血のトラブル 肝血虚(かんけっきょ)
肝血が不足することを肝血虚と言います。
顔色が白く、張りやツヤが無い。
目の疲れやすく、視力低下がある。
眠りたいのに眠れず、夢をたくさん見る。
月経が遅れる、血の量が少ない。このような症状があるなら肝血虚(かんけっきょ)かもしれません。
治法は滋補肝血(じほかんけつ)になります。
血を補うという意味です。
代表処方は四物湯(しもつとう)です。
四物湯は女性の血不足で良く処方されます。
血のトラブル 肝陰虚(かんいんきょ)
肝の血虚が悪化して陰液が不足すると肝陰虚(かんいんきょ)になります。
治法は滋陰養血(じいんほけつ)になります。
陰液を補い、血を増やします。肝血虚に陰虚特有の症状、五心煩熱、寝汗、口渇、舌の裂紋などの症状が現れます。
代表処方は六味地黄丸(ろくみじおうがん)です。
六味地黄丸は主に陰虚の改善に処方される漢方薬です。
ちなみに、八味地黄丸は陽虚に処方されます。
肝と腎のトラブル 肝陽上亢(かんようじょうこう)
肝陽上亢(かんようじょうこう)は肝腎の陰液の不足と肝陽の上昇が同時に現れている状態です。
陰液の不足で身体を冷やすことができず、火がどんどん燃え上がっているようなイメージです。肝陽上亢(かんようじょうこう)は肝腎の陰液の不足と肝陽の上昇が同時に現れている状態です。
治法は滋陰平肝潜陽(じいんへいかんせんよう)になります。
とても長いですが、漢字2文字づつ読んでいきます。
滋陰は陰液を増やす、平肝は肝を抑える、潜陽は陽気を下に沈めるという意味です。
代表処方は釣藤散(ちょうとうさん)です。
一般的には頭痛に処方されるますが、漢方では気の症状改善に処方されます。
成分に石膏が入っています。
燃え盛る風熱 肝陽化風(かんようかふう)
肝と腎のトラブル肝陽上亢が更に進行すると身体の中で風が起こります。それが肝陽化風(かんようかふう)です。
イメージは燃え盛る火が風に煽られ、さらに炎上しているという感じです。
強い頭痛、めまい、耳鳴り、突然の痙攣など、症状も激しいです。
治法は平肝熄風(へいかんそくふう)になります。
肝を落ち着けて、風を消します。
肝陽上亢では水をかけていましたが、もはやそれでは追いつかない状態です。
代表処方は釣藤散(ちょうとうさん)です。
肝陽上亢と同じ処方になります。
エキサイトして上昇する肝の気を下げる働きがあります。
まとめ
肝は気の巡りと血を蔵する働きがあります。
それが失調すると、さまざまな不調を引き起こします。
病証 | 主な症状 | 治法 | 代表処方 |
肝気鬱結 | 抗うつ、腹部膨満 | 疏肝解鬱 | 加味逍遙散 |
肝火上炎 | イライラ、目が冴えて眠れない | 清肝瀉火 | 竜胆瀉肝湯 |
肝血虚 | 顔が白い、眠いのに眠れない | 滋補肝血 | 四物湯 |
肝陰虚 | 五心煩熱、寝汗、口渇、舌の裂紋 | 滋陰養血 | 六味地黄丸 |
肝陽上亢 | 怒りっぽい、多夢、健忘、足腰のだるさ | 滋陰平肝潜陽 | 釣藤散 |
肝陽化風 | 強い頭痛、痙攣、突然意識不明 | 平肝熄風 | 釣藤散 |
「女性の先天は肝」という言葉があります。
女性は月経や出産と関わるので、血をストックする機能がある肝は大事にしましょうという教えです。